社内研修の3つのスタイルと実践プログラムの具体例
社内研修にはいくつかのスタイルがあり、どれを使うかで伝わり方や受講者の理解度が大きく変割ります。また、スタイルだけでなく、これを組み合わせてどのようなプログラムで行うかによっても、学習効果に違いを生じます。
そのため、研修をする際には、参加者の属性、目標などにあわせてこれらを適切に選択することで、より高い成果を得ることができます。
この記事では、代表的な3つの研修スタイルと組み合わせプログラム、これまでの研修との違いについて解説いたします。
社内研修をする意味
社内研修はなぜ行うのでしょうか。また、それにより何を得られるのでしょうか。社内研修を行うことには、次の3つの意味があります。
会社の理念や知識を効率よく得るため
企業には、社員に必ず知っておいてほしい「理念」や「ミッション」、「業務をするうえで欠かせない知識」がありますが、これらをマンツーマンで個別に伝えたり、教育するのは、不経済、時間のロスであり現実的ではありません。
しかし、対象者を一度に集めて行えば、経済的であるだけでなく、必要に応じて何度も開催することができます。また、専門的な知識を必要とする研修については、外部から講師を招聘することも可能です。
集合型・オンライン型を問わず、社内研修ではこのように「短時間で」、「必要なことを」、「多くの人に伝える」ことができるため、効率的に人材の育成をすることができます。
経験を共有するため
どのような内容の研修でも、一人で行うのには限界があるとともに、高いパフォーマンスを期待しにくいものがあります。
けれど、同じ目的を持った人間が集まり、研修を行えばお互いに刺激となるだけでなく、その体験は共有され、大きな気づきを得るきっかけにもつながります。また、複数人が参加することで、さらに、多様なグループワークを行うことも可能となります。
仲間やチームワークを得るため
研修での講義やグループワークなどを通じて共同作業をすることで、それまで知らなかった方と知り合いになるきっかけを得たり、チームワークを育てることができます。
また、講義の空き時間や自由時間、研修後の交流を通じて、普段なかなか連絡の取れない方との旧交を温めたり、業務の情報交換を行うことで人的ネットワークを強化することができます。
3つの学習法と研修のスタイル
研修には、「どういう形式で行うか」の学習法と、「どのような進め方をするのか?」というスタイルが、それぞれ3つずつあります。
学習法
OJT(On-The-Job Training)
OJTは、上司が職場の業務を通じて部下を指導・育成していく教育方法を意味し、従来の職場で伝統的に行われてきた方法です。
OJTには、特別なコストがかからない、実務に即した実践的な教育ができる、マンツーマンに近い形で行うので、相手の習熟度にあわせられるといった利点がある半面、上司にある程度の能力や経験が必要となる、業務優先の指導となってしまう、知識の伝達(上司側)や理解度(部下側)にムラがでるなどの問題があります。
Off-JT(Off-The-Job Training)
Off-JTは、現場から離れて指導・教育をしていく方法を意味し、外部講師を招いて行う研修などが代表的なものとなります。
Off-JTには、職場を離れた開放的な環境で教育ができる、専門家による正しい知識を得ることができる、参加者同士の交流を促進することができるといった利点がある半面、コストや特別な時間がかかる、実務と離れた内容となることがある、研修の間は仕事ができないなどの問題があります。
自己啓発
自己啓発は、企業に頼らずに、個人自らが学習し、知識を習得する方法であり、資格試験の取得などに向いた方法といえます。
自己啓発は、自分の興味があるものを対象として行うため主体的に学習できる、企業の負担がない、自分のペースで行える反面、内容が自分の興味に偏ったものとなりやすい、個人が学習費用を負担しなければならない、まとまった時間を取るのが難しいなどの問題があります。
研修のスタイル
講義型
講義型は、いわゆる「座学」といわれるタイプで、参加者が一つの教室に集まり、テキストを中心に学習するスタイルです。
1回の講義で効率的に必要な知識を多くの人間に伝達できるメリットがあるため、未経験者や初心者などに対しては効果的です。
しかし、その反面、すでにその内容を経験している方やある程度の知識や経験のある方にとっては物足りないものとなり、また、受け身の参加となるため、自分の知識や経験を発揮しにくいといった特徴があります。
ワークショップ型(問題解決型)
ワークショップ型はいわゆる「問題解決型」といわれる学習スタイルで、普段の業務や生活の中で、関係のある問題に対して、自らの体験と考察をもとに試行錯誤を繰り返しながら、問題解決をして行く方法です。
参加者主体の方法であり、成人やすでに何らかの学習をしている方に向いていますが、半面、比較的、少人数を対象とするため効率の点で劣り、成果が指導する人間の力量に左右されるといった問題があります。
省察型
省察型とは、ワークショップ型をさらに発展させたものです。
ワークショップ型は、あらかじめ必要なテーマや材料、スキルが用意されており、これらを使って問題解決をしていく手法です。これに対し、省察型ではこれらは用意されておらず、ワークの中で参加者自らが課題を見つけていく点に違いがあります。
たとえば、ワークの中で自分の考えや行動を振り返り、自律的に見つめなおすなどがこれにあたります。
個々の参加者にあった深い省察や学習が可能となり、参加者同士の相互作用が活かせる半面、時間がかかり効率が悪い、学習をする人によって差が出やすいなどの特徴があります。
効果的な研修の実践方法
研修は大まかには「前半部」、「後半部」、「まとめ」の3つのパートに分けられますが、ここではそれぞれの進め方の注意点とパートごとにあった研修スタイル・組み合わせをご紹介いたします。
研修のパートごとの進め方と注意点
導入部
研修の導入部は、あいさつ・講師の自己紹介・簡単な講義の進め方や注意事項などが中心となります。
当日はある程度早めに教室に入っておき、席の配置、室温、通風、日差し、スライドの準備や動作の確認、配布資料、マイクの調整、研修担当者との最終的な連絡など、講義の下準備をしておきます。
とくに研修では「見にくい」よりも「聞きにくい」の方が、より大きなストレスとなりやすいので、音声(全員に届いているか、音割れやハウリングがないか)に注意する必要があります。
また、時間に余裕がある場合には、先に入ってきた参加者と雑談などをすることで、多くの情報を引き出すことができるだけでなく、緊張せずに始められるなどの効果が期待できます。
前半部
前半部では、テキストやスライドを使用した、座学タイプの講義が中心となります。
最近ではパワーポイントのみで講義をする方が増えていますが、スライドの枚数が多量となり、せわしない講義となるだけでなく、資料の内容もスカスカなものとなってしまいます。とはいえ、テキストだけでの講義では、集中力が続かなかったり、全体的にメリハリのない内容ともなりやすくなってしまいます。
したがって、講義では基本的な内容はテキストに記載しておき、その要点だけをスライドにするという方法にすると、参加者の集中力を切らさず、メリハリをもって進めることができます。また、テキストのポイントだけを抜き出すので、スライドのために新たな資料を作るという手間を省くことができます。
研修で重要なのは「面白い」ではなく、「わかりやすい」や「共感できる」といった体験です。
なので、ジョークなどはところどころに挟んでも構いませんが、できるだけ最小限にしないと参加者の興味がそちらにそれてしまい、肝心の内容が記憶に残らないということになりかねません。
後半部
研修の後半部では、時間に余裕がある場合は「講義の続き+ワーク」を行いますが、時間に余裕がない場合やワークに力を入れたい場合には「ワークのみ」というのもありです。
ただし、問題解決型や省察型のワークでは、ルール説明が必要、動き出すまでに時間が必要、各グループごとに指導しなければならないなどが原因で、思った以上に時間がかかることが少なくないため、十分な時間を確保しておく必要があります。
また、提示した問題を回答させるタイプのワークの場合には、座学の延長線となりやすく、内容に新鮮味がなくなりやすいため、「グループごとに結果を競争させる」、「問題に関する体験談や失敗談を盛り込む」、「隣の人と意見交換をさせる」などのひねりを入れると退屈せず、興味をひきやすいものとなります。
まとめ部分
まとめは、それまでの研修の内容と、その研修で何を得られたかを振り返る場となります。
まとめ部分については、それまでの資料を使うのではなく、それ専用の資料を用意した方が見返しの必要がなく、スムーズに進めることができます。ポイントがまとめられたスライド資料を、まとめ資料として使うのもよいでしょう。
気をつけたいのが、まとめではそれまでの講義のポイントを話すだけでなく、その研修で何を得られたかを確認することです。
研修に求めるものは、人それぞれで異なります。基本的な知識を得たいと考えているや、その知識を業務に生かしたい人などさまざまです。そのため、自分が求める目標を達成できたのかを確認する場として、振り返りの時間が重要となります。
講義の内容と本人が希望する目標に開きがあっては、講義そのものが有効ではなかったということになってしまいます。
したがって、講義前のアンケートで、その研修で「何を知りたいか?」や「研修でどうなりたいか?」をあらかじめ確認しておくと、参加者とのずれを少なくすることができます。
従来の研修と工夫を加えた研修
従来の研修にある程度の工夫を加えることで、内容をさらに充実させることができます。
下図は、同じ「座学+討議」をメインとした研修を比較したものの一例ですが、左が基本的にテキストの内容の解説や討議をするだけであるのに対して、右では事前アンケートではじめに目標や期待するものを確認したうえで、それをグループ討議のテーマや振り返りに活用しています。
これまでの研修 | 工夫を加えた研修 |
● 必要な基礎知識についての座学 ↓ ● 与えられた課題に関するグループ討議 ↓ ● 知識の確認テスト | ● 学びたいことについての事前アンケート ↓ ● 必要な基礎知識についての座学 ↓ ● 社内の課題等をテーマとしたグループ討議 ※現状の再確認と対策の考察をメイン ↓ ● 個人ごとの振り返りと行動目標の発表 ※他の参加者からのフィードバック |
このようにはじめに目標や成果を決めてそれを参加者と共有し、それをその後の討議やワークのテーマとすることで、参加者とのブレを少なくできるだけでなく、振り返りでも本人の納得した結果を得やすいものとなります。
代表的な研修プログラムのパターン
研修プログラムには主に3つのパターンがあります。それぞれ一長一短があるため、研修の目的にあわせて取り入れるようにしましょう。
<講義→ワーク→振り返り>
最も多く行われている研修のパターンです。短時間で多人数に必要な知識をしっかりと伝えることができます。
最初に講義を行うことにより、あらかじめ必要な知識をインプットできるため、次のワーク等の準備となるだけでなく、ワークで何をするのかという要点が理解しやすくなります。
▼ 注意点
講義が強く印象に残っている場合、その後のワークもそれに沿った進行や結果となってしまいやすくなります。また、講義とワークに時間を取られてしまうと、振り返りが不十分になる恐れがあります。
例)
・新入社員研修
・管理職研修
・実務の入門研修
<ワーク→振り返り→講義>
はじめにワークで考えたり行動してもらうことで、気づきを誘発し、それを振り返った後に講義で知識を整理するというパターンです。
難解なテーマや普段取り扱わないような内容を扱うときに効果的であり、考えを具体から一般へと拡散させることで理解を深める狙いがあります。また、はじめにワークと振り返りという共有体験をするため、参加者同士の共感度や交流度を高めることができます。
▼ 注意点
ワークに慣れていない人が多いと、スムーズに進まず、予定した効果が得にくいものとなります。また、参加者を混乱させないために、シッカリした流れや目的に関する説明、シナリオなどが必要となります。
例)
・防犯防災研修
・リスクマネジメント研修
・新たな業務の研修
<振り返り→講義→ワーク>
自分の今までの経験を振り返り、そこでの気づきを研修の出発点にするパターンです。
振り返りをはじめに行うことで、その後の講義が理解しやすくなる、ワークに意欲的になりやすい、課題の解決をしたい人には気づきを与え、目的に沿った研修となりやすいなどの利点があります。
▼ 注意点
それまでの参加者の個々の経験の違いが成果の差となりやすく、各パートを違和感なくつなげるための工夫が必要となります。
例)
・モチベーション研修
・キャリア形成研修
・ハラスメント研修
まとめ
このように、研修はいくつかの型やスタイルがあり、これらを組み合わせて行うことで、単独で行うよりも、さらに高い効果を得ることができます。
これからの研修には、単なる知識の詰め込みだけではなく、学んだことを活かして組織の共通のビジョンを作ったり、個人の課題を解決するためのツールとしての役割が期待されています。
そのためには、これまで通りのやり方に固執するのではなく、研修の目標や参加者の希望にあわせた柔軟な設計が求められます。
テストビジネスでは、クライアントさまのご希望の書籍や資料からの問題作成の他、出題形式、難易度などについても柔軟に対応いたします。
また、試験を受けられる社員さま等の理解度を深め、実務に活かせる研修も行っています。
企業の社内問題の作成や研修について、ご質問等がある場合は、お気軽にご相談ください。
