社内試験における「論文問題」のメリット・デメリットとは

社内昇格試験や選抜試験において、「論文問題(記述式問題)」を取り入れる企業が増えています。
従来は、多くの企業が選択式テストや知識確認型の問題を中心に実施していました。

しかし現代では、論理的思考力、文章による伝達力、状況判断力など、実務に直結する能力を評価する必要性が高まっており、こうした背景から、論文問題は改めて有効な評価手法として注目を集めています。

けれど、論文問題には、「出題の意図が正しく伝わりにくい」、「採点の手間が増える」、「採点にブレが出る」といった問題もあります。

本記事では、社内試験に論文問題を採用するメリットとデメリットを、実務担当者の視点から詳しく解説します。
導入を検討する人事担当者や研修企画担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

■ 論文問題のメリット

1. 思考力・論理構成力を深く測定できる

論文問題の最大のメリットは、選択式テストでは測れない「考える力」を可視化できる点にあります。

文章を書くためには、事象を理解し、情報を整理し、結論へと導く論理構造を組み立てる必要があるからです。

とくに、以下のような能力を確認できます。

▽ 整合的な主張ができているか
▽ 根拠のある説明ができているか
▽ 状況に応じた判断ができるか
▽ 自身の経験を体系的に言語化できるか

こうした力は管理職候補やリーダー層に必須であり、論文問題は適性判断に非常に効果的といえます。

2. 実務につながる文章力の評価が可能

現代のビジネスでは、メール・提案書・報告書など文章でのコミュニケーションが不可欠です。

社内試験に論文問題を導入することで、「わかりやすく伝える力」「簡潔にまとめる力」といった、実務に直結する能力を確認することができます。

評価対象としてとくに重要なのは、以下のポイントです。

▽ 読み手に伝わる構成になっているか
▽ 専門用語の使い方は適切か
▽ 要点が整理されているか

仕事の結果は、文章で伝えられなければ評価されません。その意味で、論文問題は非常に実践的な試験形式と言えます。

3. 組織理念・方針への理解を測ることができる

企業理念や行動指針を正しく理解し、それを踏まえた行動ができるかどうかは、社員の重要な能力です。
論文問題では、

  • 「当社の理念を踏まえたリーダーシップとは」
  • 「事業戦略を実現する上で必要な行動を述べよ」

といったテーマを設定することで、社員の価値観や理念浸透の度合いを測定することができます。

自社の文化に合う人材を昇格させるためにも有効な仕組みです。

4. 応用力・状況判断力を評価できる

論文形式は「ケーススタディ」と相性がよいのも特徴です。
例えば、

  • 部下がトラブルを起こした場合の対応
  • クレーム発生時の優先順位
  • プロジェクト遅延の改善策

など、実務に近い状況を提示することで、受験者の判断力や問題解決力を見極めることができます。

座学型の知識だけでなく、実践力を評価したい企業にとって大きなメリットとなります。

5. カンニングや外部依存への耐性が高い

選択式試験は暗記だけで突破される可能性がありますが、論文問題はそうはいきません。

文章を書く過程に本人の思考が必ず反映されるため、他人が代筆したり、ネット検索で答えを見つけたりすることが難しい形式です。

公正性を担保するという点でも大きな利点があります。


■ 論文問題のデメリット

1. 問題作成・採点の手間が大きい

論文問題のデメリットにあげられるものとして「工数の大きさ」がります。
論文問題では、以下のポイントを押さえた内容とするため、作成や採点に人手や時間がかかります。

問題作成のポイント

  • 適切な難易度のテーマ設定
  • 記述量の調整
  • 事前の模範解答の準備

採点の課題

  • 一人当たりの採点に時間がかかる
  • 採点者によって評価がブレやすい
  • コメントフィードバックまで含めると工数が膨大

この点から、外部委託を活用する企業も増えており、外注市場も拡大しています。

2. 採点の公平性を担保しづらい

論文問題には必ず「主観の入り込み」が起きます。
回答が多様であるため、採点基準が曖昧だと担当者ごとに点数が変わってしまうことがあります。

文章の評価には必ず採点者ごとの揺らぎが生じるため、公平性を確保するためには、以下のような取組みをすることが重要となります。

▽ ルーブリック(採点基準表)の整備
▽ 複数名によるダブルチェック
▽ 各採点者への事前説明会

例えば、「企業文化を遵守すること」が正解だった場合、受験者によっては「当社の文化を尊重すること」、「当社の理念や規範に基づく精神を重視すること」などの解答が出てくることが予測されます。

このような場合、どこまでを正解とするかについては、あらかじめ「企業文化」、「尊重」という単語が入っているかどうかを採点の規準とするなどが必要となります。

3. 文章の作成が苦手な社員には不利となる

論文問題は、文章を書くことが苦手な社員にとって負担が大きくなります。

とくに、日常業務で文章をほとんど書かない職種では、「試験内容が業務と乖離している」という不満につながることもあります。

そのため、適性を測るためには、職種ごとに字数やテーマを調整する必要があります。

4. 試験時間が長く運営の負荷が大きい

論文問題は、1問で20〜60分を要するのが一般的です。
そのため、

  • 試験会場の確保
  • 長時間監督
  • 受験者側の負担増

など、運営面の影響も大きくなります。

また、システム化もしづらいことから、運営コストは選択式テストより高くなる傾向があります。

5. 自動採点が難しい

AIによる文章採点は発展しているものの、

  • 内容の正確性
  • 思考の深さ
  • 主張の妥当性

など、抽象的な判断を完全に自動化するのはまだ難しいのが現状です。

人事担当者の負担軽減には役立ちますが、最終的な判断には人の目が必要になるケースが多く、そこが選択式との大きな違いとなります。


論文問題導入のポイント(実務向け)

論文形式を導入する際は、以下のポイントを押さえておくと運用がスムーズとなります。

① 先に採点基準を作る

問題を作る前に、「何を評価するのか」、「どのレベルなら合格なのか」、「部分点の取り扱いはどうするのか」などを先に決めておくことで、採点のブレを防げます。

論文問題では、様々な語句の使用や表現がされるため、あらかじめどこまで認めるかを想定しておくだけでなく、その際の部分点の配点についても考えておく必要があります。

② 業務に直結するテーマを設定

論文問題では企業の理念や抽象論をテーマにしたものがよく見受けられますが、それだけでなく、実際の業務を想定したテーマの方が評価の質が高まります。

そのため、職種別に試験を行う場合には、その職種に特有の課題やオペレーションなどを取り入れた問題とすることで、適性にあった内容とすることができるとともに、その後の実務にも活かしやすくなります。

③ 字数は400〜800字が最適

長すぎると採点負荷が増え、短すぎると評価できる情報が不足するため、一問当たりの文字数は400~800字程度とします。

また、複数問の解答をさせ、一問あたりの文字数を200字程度にするというのもテーマによっては効果的となります。

④ 採点は複数名で実施

一人で採点すると偏りや見落としが出やすいため、必ずダブルチェックを取り入れます。

論文問題では、どれだけ詳細な基準を作っても、採点時には採点者の主観が入るため、これを補正する意味でも複数人での採点が欠かせません。

● ⑤ 外部委託を検討する

以上のように論文問題においては、「作成に手間がかかる」、「採点にばらつきが出やすい」という特徴があります。

問題の作成については、作成者の知識やセンスにより問題の質が左右されやすいという地区長があります。

とくに長年担当してきた方の転勤や退職があった場合には、後任者の負担が大きなものとなります。

また、採点についても、採点基準の作成や担当者間での意見の食い違いなどが生じるため、これらを調整する労力が必要です。

そのため、論文問題については、問題の形式や大まかな内容等を指示するにとどめ、実際の作問や評価基準の設計、採点作業については、外注することで負担の軽減や解決をすることができます。


まとめ

社内試験における論文問題は、知識だけでなく「実務力」「思考力」「伝達力」といった本質的な能力を評価できる非常に有効な手法です。

一方で、作成・採点に工数がかかり、公平性を保つための運用設計が欠かせないという課題もあります。

メリットとデメリットを理解し、適切なテーマ設定・採点基準・運用体制を整えたうえで活用すれば、組織にとって非常に価値の高い選抜手法になります。

テストビジネスでは、クライアントさまのご希望の書籍や資料からの問題作成の他、論文形式の問題の作成や採点も行っています。

また、試験を受けられる社員さま等の理解度を深め、実務に活かせる研修も行っています。
企業の社内問題の作成や研修について、ご質問等がある場合は、お気軽にご相談ください。